Weingut Baison

2024年8月15日(木)
この日、モーゼル川に別れを告げラインガウに向かう。良い天気。目指すホッホハイムの街まで、アウトバーンを使って1時間半ほどの道のりだ。ラインガウといえば、大部分がライン川沿いの地域だが、実は、最も東側のエリアはマイン川沿いにある。ホッホハイムは、このマイン川沿いの街で、昔からワインとゼクトの街として名高い。1845年にイギリスのヴィクトリア女王が訪れた後、この地のワインの美味しさが評判を呼び、この地を指す”Hock”がラインワイン全体を指す言葉になったとの逸話もある。また、この街には241ヘクタールのブドウ畑があり、ラインガウの街の中では最大の広さだ。さて、ドライブは順調。ライン川を渡り、すぐにマイン川を渡ると程なくホッホハイムだ。目的地のWeingut Baisonは、ホッホハイムの街中にある。家々が並ぶ通りを、地図を見ながら慎重に進む。角を曲がってデルケンハイマー通りに入ると、右手に”BAISON”の文字が見えた。着いた着いた。奥のヴィノテークらしきところの入り口から中を覗き声をかけると、奥様のUrsulaさんが出迎えてくれた。
Weingut Baisonは、典型的な家族経営のワイナリーで、3代目のHeinrichさんと4代目のHeinrich(Jr.)さんが共同で当主を務めている。Baison家の一族は、ホッホハイムで長い歴史を持つ。ワイン商の先祖がこの地にやってきたのは300年以上前。その後、一族はブドウ畑を所有するなど、代々、様々な形でワインの生産に関わってきた。今のワイナリーは、1935年に、デュッセルドルフでケラーマイスターとして働いていたHeinrichさんが、家族でホッホハイムに帰ってきてから創設した。そして、初代Heinrichさんの息子Ottoさんは、2代目としてワイナリーを大きく発展させ、現在のワイナリーの基礎を築いた。3代目のHeinrichさんは、「厳選したワイン生産。質を優先し量を減らす」を哲学とし、同じくワイン醸造の教育を受けた奥様のUrsulaさんとともにワインの高品質化を推し進めた。そして、現在はケラーマイスターも務めるHeinrich(Jr.)さんは、新しい知見を導入し更なる高品質化を追求している。

Ursulaさんがヴィノテークの中に案内してくれる。そこは、シンプルなデザインのモダンな空間。白が基調だが、ワインのラベルにも使われている赤とグリーンの塗装がところどころに使われていて良い感じ。絵画やオブジェも空間にしっくりと馴染んでいる。
カウンターの後ろに回ったUrsulaさんがワインリストを見せてくれる。うわ、超リーズナブル。全部10ユーロ以下。「よく見て。ゼクトは10ユーロ以上よ。さて、何を飲む?」とUrsulaさん。
ふーむ。リースリング以外の白ワインやシュペートブルグンダーも気になるが、リースリングのトロッケンが豊富にある。これはリースリングのトロッケンを堪能せねばと、まずはリストの一番上にある”H1”という名のついたワインをお願いした。あー、柑橘系の良い香り。しっかり辛口で美味しい。
「これはナチュールワインなのよ。自然発酵で、1年間樽で熟成させていているの。ノンフィルターよ」

そうなんだ。それだけ自然に任せると味わいを作るのも難しくなるが、このワイン、果実味と酸味がとても良く調和しており、雑味も無い。ブドウ畑の環境の良さと醸造プロセスを上手に管理していることが伺える。次は”Heinrich der Herbe(ハーブのハインリッヒ)”という名のワイン。おっ、これ香りが良い。フローラルな香り。飲んでみると、良い感じに酸が効いていて酸っぱい。この酸が特徴的で、独特な味わいとなっている。これ、好きな人はハマるに違いない。
次は、畑名がついたワイン。フロールスハイマー・ヘルンベルクのカビネをお願いする。柑橘系の良い香り。スパイスのニュアンスも。凝縮した果実味に穏やかな酸味。美味しい。「これはホッホハイムから少し東に行ったところにある畑よ。エレガントなワインができるのよ」とUrsulaさん。
それにしても、まだ3種類しか飲んでいないが、リースリングのトロッケンでもそれぞれ全く違う個性を持っている。いや、楽しい。

次にお願いしたのはコストハイマー・ヴァイスエルドのカビネ。柑橘系の香りに加え、酵母の香り。あー、これはしっかりとした味わい。力強さを感じる。そしてミネラル感。ヴァイスエルドとは、白い大地という意味だが、この畑は石灰岩を多く含むため、太陽が当たると本当に白く輝くとのこと。次は地元の畑、ホッホハイマー・ヘーレのカビネ。うん、これもしっかりとした味わい。酸が効いており果実味と絶妙に調和している。ミネラル感もあり、美味しい。
「この畑も石灰質を含む粘土土壌で力強いワインが出来るのよ。これは2022年のものだけど、最近ボトリングした2023年のものも飲んでみる?」とUrsulaさん。
うんうんと頷いて注いでもらう。あー、香りがフレッシュ。活き活きとした柑橘系の香りを感じる。凝縮した果実味がフルーティ。しっかりとした味わいであるが、2022年のものと比べると、軽やかに感じる。いや、どちらも美味しいが個性が違うのが面白い。次は”Handlese(手摘み)”という名のワイン。うん、良い香り。柑橘系にハーブのニュアンス。凝縮感のある果実味。ジューシーなワインだ。

と、ここでHeinrich(Jr.)さんが現れた。「やあ!君たち日本から来たんだろ。ワインはどう?」
もちろん美味しいと答えると、「それは良かった!楽しんでいってね」と言うと、トラクターに乗り込んで出かけて行った。少しの間だったが、Heinrich(Jr.)さんにも会うことができて良かった良かった。
そして、シュペートレーゼのワインをお願いする。まずは、ホッホハイマー・ヘーレ。うん、柑橘系の良い香り。飲んでみると、おー、濃厚。力強い凝縮された果実味。円やかな味わい。溶け込んだ酸がフィニッシュに向け全体をまとめる。長い余韻。いや、美味しい。そして、フロールスハイマー・ヘルンベルク。これ、リストにアルテ・レーベンの記載がある。
「これは樹齢50年以上のブドウなのよ」とUrsulaさん。
あー、柑橘系のいい香り。力強い凝縮感のある果実味。酸がしっかりと骨格を作っている。穏やかな苦味が深みを感じさせる。酸が尾を引く長い余韻。ミネラル感。いや、本当に美味しい。
リースリングトロッケンづくし、堪能しました。それにしても、どのワインも違った個性が現れていた。キャラクターを引き出すには、丁寧なブドウ栽培と細心の注意を払った丁寧な醸造、そして醸造家のセンスが必要だと思う。ワインを飲んで分かるのは、Ottoさんが礎を築き、Heinrichさんが高品質を目指す哲学を植え付けたこのワイナリーの伝統が、Heinrich(Jr.)さんにしっかりと伝承されていることだ。そして、Heinrich(Jr.)さんのケラーマイスターとしての技術とセンスは素晴らしいと思う。これからも、フォローさせていただきます!

試飲したワイン
2021 H1 Riesling trocken
2023 Heinrich der Herbe Riesling trocken
2022 Flörsheimer Herrnberg Riesling Kabinett trocken
2022 Kostheimer Weiß’Erd Riesling Kabinett trocken
2022 Hochheimer Hölle Riesling Kabinett trocken
2023 Hochheimer Hölle Riesling Kabinett trocken
2022 „Handlese“ Riesling trocken
2022 Hochheimer Hölle Riesling Spätlese trocken
2022 Flörsheimer Herrnberg Riesling Spätlese trocken Alte Reben
畑面積:7ha
生産量:42,000本/年
上級畑:Hochheimer Hölle、Hochheimer Stein、Flörsheimer Herrnberg、Kostheimer Weiß’Erd
土壌:HH/泥灰岩・レス、HS/砂質土・レス、FH/石灰岩・レス、KW/泥灰岩・石灰岩・レス
栽培種:83%リースリング、11%シュペートブルグンダー、ヴァイスブルグンダー、ケルナー、ゲヴュルツトラミネール