Weingut Möwes

2024年8月16日(金)
世界遺産の大聖堂が有名なシュパイアーから車で西に向かう。快晴。今日も暑くなりそうだ。30分ほどすると、周りの畑がブドウ畑に変わってきた。いくつかの村を抜けると、ワイアー・イン・デア・プファルツの村に入る。村の西側には深い森を湛えた山が迫っており、西に行くに従って標高が高くなっている。村に入ってすぐに右折すると、すぐに村の北側の端に突き当たり、そこはブドウ畑。その少し西側の、ブドウ畑を見下ろす高台にWeingut Möwesはあった。道端に車を止め敷地に入っていく。いくつかの建物があり、奥の方の建物に人影が見える。こんにちはと声をかけると、「やあ、待ってたよ」と、お約束をしたMichaelさんが出迎えてくれた。
中に入ると、白い壁の明るい部屋。奥に明るい色の木製のカウンターがあり、手前に同じ色合いの木製のテーブルと椅子のセットが置いてある。テーブルには男性が座っていた。ご挨拶をすると、Michaelさんのお父さんのRudiさんだった。

「日本から来たの?前にも日本の人が来たことがあるよ」と、来訪者のサインブックを見せてくれる。「ここ、景色が良いんだよ。ブドウ畑が遠くまで見渡せるんだ」確かに、良い眺め。置いてあったワイナリーのリーフレットを見ると、ワイナリーの名前の上に1611と書いてある。「ここ、1611年創業なの?」「そうだよ」とRudiさん。て、軽く言うけど、400年以上やってんだよね。この辺りの地域は、1618年からの30年戦争や1800年代のナポレオン戦争など、歴史の荒波に幾度も晒されてきたと思うが、脈々と家族経営のワイン造りを続けてきたということだ。いや、すごい。

ということで、Weingut Möwesは1611年創業。何世代にも渡り、高品質ワインを追求してきた。RudiさんとMichaelさんが共同で当主を務めており、Michaelさんはケラーマイスターも務めている。その哲学は、ブドウの栽培は出来る限り自然に任せ、醸造も可能な限り人的な介入をしないということだ。このやり方を徹底し、テロワールを純粋に表現することを目指している。ところで、今は多くのワイナリーが採用するこの哲学、60年前は全く違う状況だった。畑には過剰な窒素肥料が施され、醸造においては過度のポンプ使用、複数回のろ過、ゼラチンや活性炭などの使用が常識だった。これに反旗を翻したのがドイツでは伝説的な醸造家、Hans-Günter Schwarzさんだ。Michaelさんは、このHans-Günterさんの元で修行をした。VINUM誌の記事によれば、Hans-Günterさん曰く、Michaelさんが最も注意深い弟子であり、いつも長く残って質問し続けたとのこと。この鍛えてもらった経験もあったのか、RudiさんとMichaelさんは後進の育成に力を入れており、2003年から、毎年1、2名の若者を修行させている。そして、Weingut Möwesがあるワイアーの地は、他に類を見ないほどに小さなエリアに多様な土壌が存在している。探究熱心なMichaelさんには打ってつけの環境だ。

さて、Michaelさんがワインリストとグラスを持ってきてくれた。リストを見ると、たくさんのブドウ種がある。まずはグーツワインからと思ったが、オルツワイン(村名ワイン)にはそれぞれ岩石の種類が記載されている。これは土壌の違いを堪能せねばと、オルツワインのリースリングをお願いした。
「では、ワイアーのワインを順番に。まずはカルクメルゲル(石灰質粘土)をどうぞ」うん、これ香り華やか。フレッシュなグレープフルーツの香り。凝縮した果実味がジューシーで甘さを感じさせる。これが溶け込んだ酸と調和している。しっかりとした味わい。「これは残糖分が7.7g/lなんだ。酸は7.2g/l。カルクメルゲルは栄養分が豊富で、複雑でしっかりとしたワインになるんだよ。次はロートリーゲンデス(赤色砂岩)をどうぞ」あー、これはちょっと違う香り。レモン、グレープフルーツといった柑橘系の香りにハーブの香り。辛口の凝縮した果実味。酸味が尾を引く長い余韻。「この土壌は、上層は赤色の砂岩層で、下層は火山性の堆積物も混在しているんだ。ハーブの香りはこの土壌の特徴なんだよ」いや、確かに土壌の違いが感じられて面白い。

「次は、ちょっと南の地域なんだけど、バールヴァイラーのシーファー(粘板岩)をどうぞ。このワインのブドウは樹齢40年以上なんだよ」うん、柑橘系の良い香り。飲んでみると、しっかりドライな濃厚な果実味。そしてシャープな酸。いや、力強い。そしてミネラル感。「次もバールヴァイラーのワインで、グラニットとシーファー(花崗岩と粘板岩)をどうぞ」あー、香りが立っている。柑橘系の香りに熟したリンゴの香り。白い花の香り。甘さを感じるジューシーな果実味が濃厚。果実味と酸味が遅引く余韻は長く、ミネラル感を感じる。

「さて、引き続きリースリングで、次はラーゲンワイン(畑名ワイン)に行こうか。まずはワイアーのプファルガルテンという畑のワイン。土壌はグラニットだよ」うん、柑橘系の良い香り。アプリコット、洋梨の香り。柔らかな口当たり。やや甘さを感じる凝縮した果実味。穏やかな苦味が深みを与えている。果実味が尾を引く長い余韻。「この畑のエリアは、プファルツで唯一の花崗岩で囲まれた場所なんだよ。うちはそこで50年以上栽培をしているんだ」

そして、Michaelさんが次に出してくれたのはバールヴァイラーのアルテンフォルストという畑のワイン。「この畑はシーファー土壌で、プファルツでは珍しい急斜面なんだ」柑橘系の良い香り。そしてハーブ、スパイスの香り。口に含むと、濃厚な果実味。程よい酸が骨格をつくる。穏やかな苦味にミネラル感。複雑な味わいであるが、全体として柔らかにまとまっている。いや、美味しい。「これは自然発酵で造っているんだ。複雑で、よりテロワールを現していると思うよ」
さて、ここまでリースリングを堪能したので、次にヴァイスブルグンダーをお願いした。「これは少し北のローター・シュロスベルクという畑のワインだよ。土壌はカルクメルゲル」うん、柑橘系の香りにアプリコット。木の香り。凝縮した果実味に穏やかな酸。しっかりした味わいににエレガントさを備えている。毎度のことだが、リースリングの後に飲むと、優しい酸に癒される感じだ。すると、Michaelさんが、「これも飲んでみて。土壌はカルクメルゲルだよ」と、ムスカテラーを勧めてくれた。あー、これ香りが強い。マスカット、ライチ、そしてお花の香り。凝縮したジューシーな果実味に柔らかな酸。美味しい。ムスカテラーは普段はあんまり飲まないのだが、美味しさを再発見した。「折角なので甘いのも飲んでみて。ヴァイスブルグンダーのベーレンアウスレーゼだよ」おー、濃厚な干し葡萄のような香り。とても円やかな口当たり。甘さを伴った凝縮した果実味が舌を包み込む。長い余韻の後味は酸故かスッキリしている。あー、飲んだ飲んだ。幸せ。


「時間ある?良ければ畑を見せてあげるよ」と、ここでMichaelさんから嬉しいお誘い。Michaelさんの車に乗り込み畑へGo!最初にワイアラー・プファルガルテン。石を拾い、花崗岩質を実感。そして、バールヴァイララー・アルテンフォルスト。いや、この傾斜、確かに急勾配。基本的に平野部が多いプファルツにおいて、この急勾配は確かに珍しい。山が迫っている地域だからこその地形だ。ここでも石を拾いシーファーを実感。いや、楽しい。
それにしても、今日は、リースリングというブドウが如何に土壌の性質を良く表現するものかということを強く実感することが出来た。これも、テロワールを純粋に表現することを目指すRudiさんとMichaelさんが、ワイナリーが長い歴史の中で培ってきた技術を、現代的なアプローチで適切に発展させてきたからに違いない。様々な土壌に囲まれたこのワイナリー、これからもフォローしていきます!

試飲したワイン
2023 Riesling trocken Weyher in der Pfalz Kalkmergel
2022 Riesling trocken Weyher in der Pfalz Rotliegendes
2022 Riesling trocken Burrweiler Schiefer
2023 Riesling trocken Burrweiler Granit/Schiefer
2022 Riesling trocken Weyherer Pfarrgarten Granit
2022 Riesling trocken Burrweilerer Altenforst ”Spontangärung” Schiefer-Steillage
2022 Weißburgunder trocken Rhodter Schloßberg
2022 Gelber Muskateller trocken Weyher in der Pfalz Kalkmergel
2017 Weißburgunder Beerenauslese Weyherer Michelsberg
畑面積:10ha
生産量:75,000本/年
上級畑:Weyherer Michelsberg、Weyherer Pfarrgarten、Burrweilerer Altenforst、Hainfelder Letten、Rhodter Schloßberg
土壌:WM/粘板岩・風化粘板岩・砂質粘土、WP/花崗岩、BA/粘板岩・風化粘板岩、HL/石灰質粘土・貝殻石灰岩、RS/石灰質粘土・貝殻石灰岩・砂質粘土
栽培種:35%リースリング、15%シュペートブルグンダー、12%ヴァイスブルグンダー、8%シャルドネ、5%グラウブルグンダー、3%ジルヴァナー、22%その他